31.August.2021

Alison Moyetの『Essex』と物議をかもしたレコーディング

あるアーティストのビジョンと自由が商業的成功と重なったとき、夢は現実となる… 普通は、そうなる。しかし、音楽業界の経済的現実により、そうした偉業を長年にわたり持続させることは至難の業となっている。精力的に活動する歌手のAlison Moyetは、長年にわたるソロとしてのキャリアを通じて世界的な大成功を収めてきたが、その成功には代償が伴うこともあった。レコード レーベルの幹部たちは、アーティストとしてのAlisonのビジョンの正しさよりも、収支決算を重視しているからである。

Alisonはシンセポップのデュオ、1982年以来メインストリームの注目を集めていたYazoo(北米ではYazで知られる)を解散した後にソロとしてのキャリアを歩み始めた。『Don't Go』や『Only You』など、ラジオでヒットした曲は、作曲家にしてDepeche Modeの元メンバーであるVince Clarkeの手で生まれた並外れてキャッチーなシンセのメロディーにより、放送電波を席巻した。しかし、Yazooの中心的存在(というより、Alisonが関わったすべての曲の中心)は、Alisonをダンス クラブの音楽界で時代の寵児とした特徴的なブルース調のコントラルト ボイスだ。

1994年、Alisonはダンス クラブから飛び出し、より生々しく最小限の音だけを追求したアルバム『Essex』(アルバム名は彼女の故郷であるイングランドの地方名に由来)を作ろうとしたのだが、結局、御破算となった。Alisonのレーベルは完成したレコーディングを却下し、より商業的に受け入れやすい音楽になるよう大半のトラックをレコーディングし直さない限り、リリースしないと言い張った。自分自身が作りたい音楽を生み出すために多大な労力を費やした後で、レコード レーベルに言われたくない言葉の第一位はこれだろう。Alisonによると、それらの曲は「ギターの音だけ聞かせても、それだとわかるような曲」だったという。Alisonがアルバムのリリースを望むなら、Columbiaの要求を呑む以外の選択肢はなかった。かくして、プロデューサーのIan Broudieを招き、アルバムの大半のトラックを作り直すこととなった。だが、Alisonの見通しは明るかった。Alisonは後に次のように語っている。「2度もレコーディングをやらされたせいでちょっとやる気は削がれてたけど、イアンは利口な男だったし、面白い経験になったわ」

アルバムにも収録された『Essex』のオリジナル曲の1つは、心に残るようなアコースティックのバラッド『Whispering Your Name』で、アメリカのシンガーソングライター、Jules Shearが作った曲だ。Alisonによる最小限のアレンジが美しく力強く作用し、アコースティックの音が豊かでムードのあるシンセを補っている。『Essex』のリード シングル『Falling』はレーベルの意にそぐわなかったため、セカンド シングルとして『Whispering Your Name』のアップビートなダンス バージョンをリリースした。Julesが1983年に原曲をレコーディングして以来、何人ものアーティストがカバーしてきたが、ヒット チャートに登場し、イギリスのトップ40に躍り出たのはAlison Moyetのダンス バージョンだけだった。

再収録した『Essex』がリリースされても、このアルバムはレーベルが期待したほど売れなかった。Alison Moyetはこのときの経験について冴えたコメントを残している。「売上は最悪だったけど、悔いはないわ」もしかすると、オリジナルのアルバムの方が売れていたのだろうか?それは誰にもわからない。しかし、レーベルの方々には、この逸話を教訓とし、アルバムを創るミュージシャンのことを単なる商品ではなく、アーティストとして扱ってもらいたいものである。(※各リンクから外部の英語ウェブサイトに移動します。)

Leila Abdul-Rauf、カリフォルニア州オークランドを拠点とするマルチプレイヤー、作曲家。メタルバンドのVastumHammers of Misfortune、エセリアル ポストパンク バンドTerebellumでギタリスト兼ボーカリストを務めている。また、自身の名義と、エレクトロニック トリオIonophore、シンセフォーク デュオFyrhtuで環境音楽の作曲・制作も行っている。各国でツアーも実施しており、余暇にはギターとボーカルの個人インストラクターをしている。

Alison Moyet, Dublin 2008(著作者:Martin Dobey)はCC BY 2.0ライセンスのもと使用を許可されています。

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